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タオ(道)老子の哲学5

2019-12-31

「愛すること」「あまり欲張らないこと」そして「人の先に立とうとしないで、自分のペースで生きること」老子はこれを三つの宝だと説いている。

ともに根は生命進化の段階の本能に近いところにある。
「愛する」心は自然なものだ。愛はさまざまな形で内在している。「幼いころ私は愛されなかったから愛し方がわからない」というようなことを言う人もいるが、そのような後天的な性質のものを指しているのではない。

故郷、季節、風景、花、虫、動物、モノ等々対象に注意を向ければ、愛は自身の心に容易に姿を現すものだということに気づく。求めなければ「愛する」はごく自然に自身のうちから現れるのだ。求める愛は余計なものまで付けてよこすから、つい勘違いが起こる。また人間の人恋しさと誤ることも多い。

古い書物によれば西欧文化が輸入される前の日本人は「あまり欲張らない」人々が多かったようだ。むしろそのような人は軽蔑の対象であったことが江戸時代の士農工商の制度からもうかがわれる。もちろん賢い商人は欲張れば長く続かないことを織り込んでいるわけではあるが。社会全体が個人の欲望をあおる時代に暮らす我々は日々刻々欲を試されているともいえる。

「人の先に立とうとしないで、自分のペースで生きる」は不争の思想の根本を示す。人類は2000年以上に渡って国家をはじめ統合という方向を目指してきた。究極の形がグローバルスタンダードという指向性であったわけだが、どうやらその野望は打ち砕かれつつある。世界はいま多様性に目を向け始めている。さまざまな多様な生き方をお互いに尊重し合ったほうが幸福であること感じはじめている。

老子が説いた「愛すること」「あまり欲張らないこと」そして「人の先に立とうとしないで、自分のペースで生きること」という三つの宝は2500年の時を経てようやく人類が理解できる段階に至った。すべては内なるもの生命の根源であるタオ(道)に一人ひとりが気づく、目覚めることがはじめの一歩である。

引き続いて、加島祥造箸「タオ・老子」から、老子全81章のなかから、再びいくつか紹介したい。

【タオ/老子】 加島祥造箸より

第四十六章 いまあるもので充分さ

タオの道が世にゆきわたる時は
軍馬さえ、糞を畑に落として、
土地を豊かにするがね。
タオの道にそむいた世となると
牝馬さえ引き出されて、
遠い国境の野で仔馬を産みおとす。

この違いはどこから来るのか―
ひとことで言えば、それは
人や国が、満足しないで、
さらに取ろうとするからなんだ。
じっさい
他人の物を欲しがるのが、
いちばん誤ちの元なんだ。
いまあるもので充分、
と知る人だけが、
いま生きることの豊かさを知るんだよ。
自己否定をしろとか、欲するなとか、
言うんじゃないんだ―いいかい、
ただ、
どこで止まるかを知ること、それだけさ。

第五十一章 道と徳

「道」(タオ)っていうのは
萬物を生みだす働きのことだ。
この生みだされた萬物を
動かす力を
私は「徳」(テー)と呼ぶんだ。
道が生んだものを
徳が養うわけだ。
養い育てて、形をつくり
存在する場をあたえる。
だから萬物はみんな
道を尊び
徳を大切にするべきなんだ。

萬物が
道を尊敬するのは、それが
無理に圧(お)しつけられたものじゃないからだ。
自然に生まれて、
その本来の力を植えつけられたからだ。
道と徳は、
法律や社会道徳じゃなくて
ものの内にある力なんだよ。
だから、道とは、くり返すが
すべてを生みだし、養い、育て、
成熟させ、そして
その果実を地に落ちたら埋めてやる。

生みだしたからって、
自分のものにしないし
大変な働きをしたからって、
威張らない。
成功して人びとの頭にたったからって
支配したり操ったりしない。
だから私は
この道の働きを
玄徳、神秘のパワー、と言うのだ。

第五十三章 内なる光で見直してごらん

ほんのちょっと
君の内側を光で見直せば、
この道が平らで広いものと分かる。
そしてもう
横道なんかに入りこまない。
だがね、多くの人びとはどうも
狭い道が好きらしくって、
そこで押し競(くら)をし、
先を争って、他の人の上にのしあがったりする。
のしあがった者たちが
政治や経済を支配して、あんなに
着飾ったり、巨大なビルを建てたり
とてつもない武器をつくったりする。
飲み食いに贅沢をし
金銭を積みあげる。

これはみんな盗人のすることだよ。
あの大きな道とは大違いなんだ。
そして確かなことだが、
こういう人たちは、ひとりの人間としては
けっしてハッピーじゃあないのさ。

「タオ・老子」加島祥造箸から引用



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