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「人間この未知なるもの」アレキシス・カレル著から考える1

2020-04-01

〇カレルの危機感

アレキシス・カレル(1873~1944)はノーベル生理学・医学賞を受賞した科学者である。訳者の渡部昇一によれば、「人間この未知なるもの」はカレルの西洋文明という、自然科学の発見を含む人類空前の大文明を作った白人が、人間というものを十分に知らなかったために、崩壊の危機に瀕している、という危機感から書かれたものであるという。

※ちなみに、カレルの思想が優生思想的な面を持ち、特に白人に対する愛やエリートに対する思い入れがあることは承知している。

カレルは150年ほど前に彼の専門領域である生理学・医学の視点や人間をどのように観察していたのだろうか。何を知識や問題として持ち、どのような理由によって危機を感じていたのか。それは現代においては進歩によって解決されたのか。

カレルはこの本を書くことについて次のように言っている。
「この仕事を始める前に、私はこれがどんなに難しいか、ほとんど不可能に近いのではないか、と考えていた。しかし、誰かがやらねばならないから、という理由だけで、自分がすることにした。というのは、人間は現代文明を今のままの方向で続けていくことはできないし、
それは退廃してきているからだ。

人は、自力で動けない物質の持つ科学的美しさに、夢中になってしまっている。人は、自分たちの体と心が、星の世界の法則ほどはっきりはしていないにしろ、容赦のない点では優るとも劣らない自然の法則に支配されていることに十分気がついていない。また、自然の法則を破れば、必ず罰を受けることにも気づいていない。

だからこそ、宇宙や人間同士や自分の内面や、また器官や心について必然的な諸関係を学ばなければならないのである。人間がすべてのものより優れているというのは事実である。もし人間が退化するようなことがあれば、文化の美しさも、自然界の壮大さえも消え失せてしまうだろう。

こういう理由で、この本は書かれたのである。静かな田舎で書かれたのではなく、ニューヨークという混乱と騒音と疲労の地で書き上げられた。
(中略)
実際、世界の国の大部分は北アメリカの先導に従っている。工業文明の精神と技術を盲目的に取り入れた国々、イギリス、フランス、ドイツはもちろん、ロシアもアメリカ合衆国と同じ危機に曝されている。人間の関心は、機械や無生物の世界から、人間の体や心の世界へ、すなわち機械や、ニュートンやアンイシュタイン宇宙を創り出した肉体的、精神的な働きへと、移り変わらなければならない。」

当時の生活環境の様子や人間の課題。そしてカレルの危機感が浮かび上ってくる。この本を書いたニューヨークという都市モデルは世界に広がり、東京はもちろん、香港、シンガポール、上海、最近ではバンコクまでも、同じ風景が展開され、いったい自分がどの国にいるのかさえ不明になるほど酷似している。これはグローバリゼーションの流れの一部であり全体に通じる現象である。

工業文明は猛威を振るい安心、安全、便利、快適というプロパガンダによってアメリカ人も日本人も、韓国人も中国人も同じような食事をし、同じような洋服を着て、同じような家に住み、同じように暮らし、同じような労働をする。さらに、人間の体の外化(工業化)も着々進行し、ついにはAI(人工知能)なるものを生みだした。これは、確かに機械の進化ではあるが人間自身の進化ではない。むしろ逆である。カレルのいう人間の退廃も深化していると言えるだろう。

事態は深刻である。カレルはいう我々人間の体も心も自然の法則に支配されていて、その法則を破れば必ず罰を受ける。現実に目を転じれば地球温暖化は差し迫った危機になりつつあるし、プラスティックゴミは、このまま増えれば2050年には海を水の量を上回るという。先進国による資源の奪い合いは激しさを増し、他国への干渉は内戦を招き世界には難民があふれる。企業は新たなマーケットを求めて押し寄せている。そして経済的な格差は広がる一方である。

我々の生きる世界に法則の優先順位があるとするなら、第一に宇宙の法則、第二に自然の法則、第三に生命の法則の順番であろう。
当然のことながら宇宙、自然の前に人間は無力である。クローン技術やゲノム解析により生命を支配下おけると考える節もあるが、生命そのものを人間の手で作ることはできない。
もちろん人間より優れた生命が誕生する可能性はある。
生命は宇宙、自然が生み育んだものである。そして、自ら生まれ進化する。
人もその法則から逃れることはできない。

参照図書 「人間この未知なるもの」アレキシス・カレル箸



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